概要
タイトル:トラクターの世界史
人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち
著者 :藤原辰史
19世紀末から導入し始められたトラクター。
比較的歴史の新しいトラクターですが、農業生産に大きな影響を与えています。
さらに、政治的なプロパガンタなどにも使用されています。
トラクターのメリットだけでなく、新たに発生した問題についても語っており、歴史を通してトラクターの様々な側面を読み取ることができます。
本書では、トラクターがそれぞれの地域にもたらした政治的、文化的、経済的、生態的側面について考察し、二〇世紀という時代の一側面を、ただし、けっして見逃すことができない重要な側面を追っていく。
トラクターの歴史はこれまで、国やメーカーごとに描かれてきたが、全体として扱われることはなかった。もちろん、世界全てのトラクターを扱うことは不可能であるが、二〇世紀にトラクターが歴史に残した痕跡をできるだけ広い視野に立ちつつ辿ることは、そのまま、人間が機会を用いて自然界や人間界とどう向き合ってきたかを知る手助けになるはずだ。そのうえで、いったいトラクターは人類の歴史をどう変えたのかについて、考えていきたい。
(まえがき pⅶ )
構成
はじめに
第1章 誕生 ー 革新主義の時代のなかで
第3章 革命と戦争の牽引 ー ソ独英での展開
第4章 冷戦時代の飛躍と限界 ー 各国の諸相
終章 機械が変えた歴史の土壌
あとがき
参考文献
トラクターの世界史 関連年表
索引
ポイント
トラクターの特徴
トラクターには以下のような特徴があります。
・土壌と接する部分が車輪もしくはキャタピラ
・乗用型、歩行型、無人型に分類される
・動力源を様々な作業に接続できる
・動力源が筋力でなく内燃機関である
トラクターは、それまで利用されていた家畜に取って代わるのだが、家畜と異なる点もあげられています。
・疲れないが故障する
・飼料は必要ないが燃料が必要
・排出物は排気ガスだけであり、肥料として用いることができない
・重いので土壌圧縮をもたらす
・乗ることができるが、けがをしやすく健康に与える影響が大きい
特に、家畜などと違い肥料が出ないのは大きな欠点で、他所からの肥料の購入を余儀なくされます。
そして、二〇世紀は化学肥料も大きく発展するのですが、化学肥料の発展とトラクターの普及と密接に関わっています。
トラクター導入時は、利益・不利益両面あり導入に反対する論者もいましたが、改良などもありアメリカでは普及していきます。
トラクターの進歩、5つの画期
アメリカで第一次世界大戦前に使われていたトラクターは1000台にすぎませんでしたが、1950年代には400万台を超えます。
この間、トラクターには5つの画期的な進歩があります。
・流れ作業による大量生産による価格低下
・パワー・テイク・オフ(動力の作業機へ伝達)の開発
・ジェネラル・トラクター(畝間の除草可能)の開発
・ファーガソンによる三転リンク(転倒防止、土壌攪拌・砕土)の開発
・ゴムタイヤによるグリップ力向上による速度、安定性の向上
大量生産と合わせて、機能も向上したためアメリカではトラクター普及していきます。
その他の国でのトラクター
ソ連や中国でもトラクターは導入されていきますが、社会主義的の政治的なシンボルとしての意味合いが強く政治的背景が描かれていたのが興味深いです。
なお、大量のトラクターを導入したが、燃料、整備などインフラ的な問題を抱えて効果的な運用には苦労した点が伺えます。
日本でのトラクター
本書では、日本のトラクターの歴史についても、ひとつの章を割いて語られています。
二〇世紀前半、トラクター後進国として輸入していた日本が、二〇世紀後半にはアメリカ市場まで食い込んでいくまでの物語が語られています。
意外だったのが、耕運機の開発の中心を担っていたのが岡山や島根など中国地方だったことです。
悪戦苦闘を重ねながらも開発を進めていく姿が描かれているのは興味深く読めます。
現在もある、クボタ、ヤンマー、イセキ、三菱マヒンドラ農機の国産メーカーについても言及されています。
西日本、特に中四国側にメーカーが集中しているところは興味深いです。
感想
100年くらいのわずかな間で、トラクターが目覚ましく発展してきた様子がうかがえます。
本書の冒頭に語られていますが、トラクターも二〇世紀を代表するモータリゼーションの一部を担っています。
トラクターなしには、農業生産は現在のように拡大できないでしょうし、人間の歴史にとっても大きな影響を与えた製品だったのだと感じました。
文学や政治的シンボルにも登場していたのには、時代も感じて面白いです。
歴史に興味のある方、トラクターがお好きななどにおすすめな一冊です。
ご一読ありがとうございます。