概要
タイトル:チョコレートの世界史
近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石
著者 :武田尚子
甘くておいしいチョコレートの歴史です。
中米で生まれた苦い飲料から現在の甘いチョコレートになっていった過程を知ることができます。
また、チョコレートが働く人々にとって重要な役割を持っていたり、チョコレート会社が先進的な活動をしていたなど、社会に与えた影響についても語られています。
チョコレートのとろける甘さには、国ごとの異なる近代化の過程が溶け込んでいる。チョコレートやココアは、「社会的」なスイーツでもある。チョコレートをめぐる「甘い味わい」と「社会的な味わい」のダブル・テイストが、褐色のスイーツを味わう楽しみをさらに深めてくれることだろう。
(はじめ pⅲ)
構成
はじめに
序章 スイーツ・ロード 旅支度
1章 カカオ・ロードの拡大
2章 すてきな飲み物ココア
3章 チョコレートの誕生
4章 イギリスのココア・ネットワーク
5章 理想のチョコレート工場
6章 戦争とチョコレート
7章 チョコレートのグローバル・マーケット
終章 スイーツと社会
あとがき
注
文献
ポイント
原産地(中米)でのカカオ
チョコレートの主原料であるカカオの原産地は中米です。
カカオは、宗教・経済・身体面において価値があると考えられており、祭事の供物、貨幣、健康増進用の飲料に使われていました。
カカオが健康増進の飲料として飲まれていたのは知っていましたが、貨幣としての価値を持っていたのは初めて知りました。
1545年のメキシコ市場では、トマト大1個とカカオ一粒、鶏の卵がカカオ二粒といった具合だったそうです。
一粒100~200円くらいのイメージなのかなといった印象です。
金、銀、カカオといった具合で、小銭感覚だったのかなと思うと当時の暮らしを想像できて面白いです。
砂糖とカカオ
17世紀頃、ヨーロッパへ渡るとカカオは「甘い」飲み物として浸透していくことになります。
カカオだけでは、苦みが強くヨーロッパでは受け入れにくかったものに、砂糖が加わることで甘さを得ることができました。
チョコレートに甘みがなかったら、今のように世界全体には広がっていないので、砂糖との出会いはチョコレートにとっては運命的ですね。
宮廷ココア担当官
ヨーロッパでは当初、ココアといった形で「薬品」として飲む習慣が広がっていきます。
ポルトガル宮廷では、王侯貴族にココアを提供したり、軍のための王室病院でカカオを処方、備蓄する責任を任された「宮廷ココア担当官(チョコラテイロ)」が登場します。
茶やコーヒーとともに経済的資源や権力のアピールにも使われています。
ショコラティエールやマンセリーナといったココア専用のポットやカップも登場し、誇示的消費の側面も出てきます。
チョコレートの誕生/製造
長らく続いた飲むココアから1947年にそのまま食べられる固形のチョコレートが誕生することになります。
当初は材料の粒子が荒くザラザラ感のため売れ行きはいまひとつでしたが、「コンチェ」と呼ばれる攪拌・すり混ぜの加工の改良によって粒子を細かくすることができ現在の触感へ近づいていきます。
ココア/チョコレートの製造に関しても、職人が作るところから規模の大きい工場、蒸気機関の利用が進み生産規模も拡大して行きます。
労働者のアルコールとチョコレート
19世紀、20世紀前半の労働者が勤務中にエネルギーをとる手段はアルコールでした。
手っ取り早く血糖値をあげられるアルコールはエネルギー補充にはいいですが、依存症や労働意欲の減退で欠勤率が増加し、社会問題になっていました。
そこで、アルコールに代わる栄養補給食材としてチョコレートが注目されます。
今でも売られているキットカットの溝は、仕事の合間に取り分けて口に運びやすいようにと工夫された名残として今も残っています。
前近代を描いた映画などで、アルコールを飲んで仕事しているシーンなどがありますが、エネルギー補給というそれなりの理由があったことに驚きました。
現在では、アルコールを飲んで仕事をするなどは考えられないですが、チョコレートがなかったらもっと後の時代まで習慣として続いていたかもしれません。
チョコレート工場の労働政策
チョコレート工場の規模が拡大すると供に働く労働者の数も増えていきます。
規模の拡大とともに、女性労働者の離職率の高さ、作業の細分化による労働意欲の減退などの問題も抱えることになります。
ロウントリー社では、発生した課題に対して教育プログラムの導入や産業心理学部門の設置による賃金体系と労働意欲の調査によって対応を進めていきます。
仕事を終えた後に工場の敷地内に教室、図書館の設置や授業を開講したりし、働きながら学べる環境を整備したり、福祉指導員を配置したりしています。
また、固定給、出来高給、ボーナス給の賃金形態での働き方の調査からどの部署にどの賃金形態を適用するか、採用応募者に心理学テストを実施したりして退職率の低下を20%以上から5%ほどに低下させたりとしています。
ただの規模の大きい工場と行っただけでなく、チョコレート工場が当時としては先進的な取り組みを実施したことが分かります。
ロウントリー社の心理学部門の開設が1922年なので100年くらい前から、労働のやりがいや教育環境について取り組まれていています。
今の環境があるのもチョコレート工場のおかげと考えると感謝するとともに、100年たった現在も働き方、やりがいなど問題になっているのには課題の難しさ答えのなさを感じました。
感想
原材料カカオからココア、そして現在の固形チョコレートに至るまでの物語が語られています。
中米から発祥して、ヨーロッパへ渡りそして全世界へと広がっていく流れを知ることができます。
カカオからチョコレートを作るまでの、プランテーションの話などは世界史の歴史などで出てきたりして知っていたりもしましたが、近代での労働者のエネルギー源としての話やチョコレート工場での教育や福祉など先進的な活動については知りませんでした。
その他にも、チョコレートを食べる層が王侯貴族から富裕層、労働者、子どもなどへ広がっていくところも注意すると、現代へ近づきを感じることができます。
歴史に興味のある方、チョコレートお好きな方などにおすすめな一冊です。
ご一読ありがとうございます。