概要
タイトル :匠の技の科学 材料編
編集 :京都工芸繊維大学 伝統未来教育センター
日本に伝わる伝統技術、その匠の技を紹介しています。
植物、金属、土あらゆる材料を匠の技で加工することによって、素晴らしい日本の伝統工芸品は出来上がっています。
本書では、伝統工芸品がどんな現象を利用して製作されているか、非熟練者と熟練者の比較から匠の技のポイント、匠の動きの分析など科学的に分析されています。
伝統工芸品は、美しい、使いやすい、持っていると心が落ち着く、そして人々に薦めてみたいものであります。
長年人々に愛されてきたこれらの製品の良さは、それを作る匠の技によるものです。本書は、伝統の技を様々な角度から分析し、わかりやすく解説したのもであります。
その技は、材料選び、道具の工夫、ものづくりの現場における動作、目配り、力の入れ方、そしてでき上がりの評価と、一連の流れに、すべての段階に必要であります。
そのすべてを身につけたのが“匠”であります。
(中略)
匠の方々との共同の活動が本書には詰まっています。
楽しみながらお読みください。
そして、できますれば、ものづくりの現場を訪れてその真髄にお触れください。
(はじめに pⅰ-ⅱ)
構成
はじめに
第1章 竹・木材
第2章 繊維・紙
第3章 塗料・接着剤
第4章 金属材料
第5章 土・焼き物
column 梅花皮模様は世界で一つ
索引
ポイント
表具に用いる接着剤と叩打技術
表具とは、絵画を鑑賞するための掛け軸や屏風などの装訂方法の総称です。
接着剤には、小麦由来のデンプン糊が使われています。
掛け軸や巻子に絵画や書を装訂する際には、和紙による裏打ちが必要です。
デンプン糊は、水を与えると膨潤し修繕の際裏打ちを剥離させて、取り替えることができます。
また、これまでの実績から150年後の劣化を予想できることから書画の修繕現場では使われ続けています。
さらに、掛け軸など巻き付けるために、和紙4層と接着しており、2層目以降は乾燥で硬くなりすぎないよう10年ほど小麦デンプン糊を冷暗所で寝かせた「古糊」を使用します。
古糊での接着力を上げるために、接着面を叩くことを叩打というのですが、これが非常に難しいです。
強く叩きすぎると、書画を傷めてしまい、弱いと十分な接着力が得られません。
見た目は単純作業のようですが、習熟には8から10年もかかるそうです。
美術館でもよく観る掛け軸ですが、そんな技術が込められているのには驚きです。
糊を貼るのを習熟するにも長い年月がかかるのには、伝統技術の凄さと大変さを感じます。
匠の技術の分析として非熟練者と熟練者での動作を赤外線マーカーで計測しています。
マーカーの軌跡も非熟練者と熟練者の差は明らかで、匠の技すごいなと思わせてくれます。
また、合わせて眼球運動解析、表面筋電計測などの解析方法を駆使して技術習得に役立てようとしています。
匠の技術も素晴らしいですし、現在、身につけようとしている人がコツなどを掴みやすくなってくれることは、伝統を残していくのにもやく立つので上手くいって欲しいなと期待が膨らみます。
豆腐すくいの網の形
現在は機械網が主流となって、豆腐すくい、餅焼き網、茶漉しなどの伝統工芸品にのみ残っている金属の手編み製品についても匠の技を観ることができます。
亀甲型の捩れや形状によって、非熟練者と熟練者の作ったものでは捩れ部の強度だけでなく、豆腐に残る形状、豆腐すくいの腐食のしやすさまでに違いが出ているのには驚きです。
豆腐すくいの豆腐との接触時の形状を高速度カメラで観察していたり、塩素噴霧によって腐食の進行を比較したりと分析方法も本格的で興味深いです。
土壁のなぜ
日本家屋にも昔から使われている「土壁」
・水で練るとドロドロとなり、水がなくなると凝結する
・結露が起こりにくい
・火事の時に温度上昇が100℃手前で足踏みする
などの特徴がありますが、科学的な仕組みがほとんど知られていません。
また、剛性は小さいが靭性は大きいという特徴があり、衝撃を受けた際に柱を傷める前にまず土壁で衝撃を受けることで柱や梁への被害を軽減します。
土壁の特性は、木造建築と相性が良く古くから日本で使われて発展してきたことに納得しました。
最近では、コンクリートの建物ばかりになってしまいましたが、昔見た土壁にそんな利点や魅力があったのには驚きです。
感想
日本伝統の匠の技が数多く紹介されています。
そして、匠の技術を科学的に解析してその凄さを垣間見ることができます。
豆腐すくいにも裏打ちされた技術ありでした。
良いものには、理由があるということを感じられる内容です。
知っておくと、観光などで伝統工芸品などのお店に立ち寄った際に、より楽しめるようになります。
伝統品など好きな方や観光などでいろんなものを見ることが多い方にもおすすめな一冊だと思います。
ご一読ありがとうございます。