概要
タイトル:すぐわかるイスラームの美術
著者 :桝屋友子
他の宗教が純粋な宗教美術を指すのと比較して、イスラム美術は世俗的な美術も含む幅広いものとなっています。
建築・写本芸術・工芸品を中心に美しいイスラム美術について、特徴だけでなく歴史も交えて解説しています。
美術史学において、「イスラーム美術」という言葉は包括的な意味で使われる。つまり、ある美術作品があって、それを注文した人物、それを制作(製作)した人物、それを受け入れた人物のいずれかがムスリムであれば、それを「イスラーム美術」と呼ぶのである。
(中略)
例えば「仏教美術」や「キリスト教美術」が純粋に宗教美術だけを指すのとは異なり、世俗的な美術も含むことになる。
(イスラーム美術へのいざない p8)
構成
イスラーム早わかり講座
イスラーム美術へのいざない
第一章 建築 ー緻密な装飾と構造が魅了する美の空間へ
第ニ章 写本芸術 ー職人の精魂が宿る書画と装丁の世界
第三章 建築 ー儀礼具や日用品を彩る多様な意匠
おわりに ー日本人を魅了してきたイスラームの美術
用語解説
日本で見られるイスラーム美術 ー美術館紹介
参考文献
索引
ポイント
3つのモチーフ、3つのジャンル
イスラ―ム美術に共通してみられる装飾モチーフとして、「植物文様」「幾何学文様」「文字文様」があります。
植物文様 :アラベスクと呼ばれる蔓草の連続植物文など
宗教的に忌避される人物・動物表現に代わる唯一有機由来の表現
文様自体が主役、純粋に抽象的、計算に基づく無限に続くパターン
文字文様 :コーランの引用、制作年、制作者、パトロン、詩文の引用
アラビア文字の形をまねただけの倣文字文
主なジャンルとしては、「建築」「写本芸術」「工芸」に分けられます。
建築 :モスクなどの宗教建築、宮殿・浴場などの世俗建築に分類できる
モザイク、フレスコ画、タイル、浮彫など多彩な技法による壁面装飾が魅力
写本芸術:書と絵画と装丁を一体とした、コーラン、叙事詩、科学書等の写し
ギリシアから伝わった科学知識も写本技術によって後世に伝えられる
工芸 :ラスター彩、ミーナーイー、エナメル彩など多彩な技法や技術
一面に植物文様、幾何学文様、文字文様が描かれている
基本的な3モチーフ×3ジャンルの特徴を捉えていれば、イスラーム美術を観る際に注目するところが少しずつ分かってくると思います。
日本人を魅了してきたイスラームの美術
日本にもイスラームの美術品が昔から渡ってきています。
鑑真が持ち帰った「白瑠璃舎利壺」やイラン産のキリムを仕立てた「鳥獣文綴陣羽織」などがあり古くからのつながりを感じさせてくれます。
江戸時代にもイスラームの陶器が流入していることが分かってきています。
鮮やかな織物や透き通るような陶器は、当時の日本人にも魅力的だったと思います。
感想
フルカラーでイスラムの美術について解説しています。
「植物文様」「幾何学文様」「文字文様」の3つのモチーフと、「建築」「写本芸術」「工芸」3つのジャンルに注目することが、鑑賞する始めの一歩です。
鮮やかな文様も細かく見て観たくなる気持ちになります。
イスラーム美術に興味ある方、近々近場の美術館でイスラム美術関連の展覧会が開催される地区にお住まいの方などにおすすめな一冊です。
ご一読ありがとうございます。