こゆのときどき日記

美術館・読書・その他いろいろ。。。

当ブログでは一部記事にアフィリエイト広告等を利用しています

【読書】他者と働く

概要

タイトル:他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論

著者  :宇田川元一

 組織のどうしても残ってしまう問題について、対話とナラティブアプローチを用いてアプローチする方法についてて述べています。

 相互理解を深めて組織が同じ方向へ向かっていくために実践すべきことをアドバイスしてくれます。

 私は経営戦略論や組織論を専門とする経営学の研究者です。「新たな事業を興していける組織はどのようなものか」をテーマに研究をしています。

(中略)

 科学的に「正しい答え」を出す研究はとても素晴らしく、感銘を受けるものもたくさんあります。その一方で、自分の過去に経験した生々しい現実に置き換えたときには、「そういうことじゃないんだ」というもどかしさをずっと感じてきました。そしてあるとき、なぜもどかしいのか、その帰結に突き当たりました。

 それは「知識として正しいことと、実践との間には大きな隔たりがある」ということです。そして、実践が難しい問題は、少し目を凝らせば無数に転がっていました。

(中略)

 私たちの眼前にはたくさんの「武器」があり、戦術や戦略があります。それらの武器でなぎ倒されたあとに残るのは、一筋縄で解決できない組織の壁や政治、文化、慣習などでがんじがらめになった「都合の悪い問題」ばかりです。

(中略)

 この本には、副題に「組織論」という言葉がついています。組織論というと、一般には組織形態やマネジメント手法、あるいは組織メンバーのモチベーションなどをテーマとするものと考えられていると思います。一方、この本では、組織内での関係性を作ったり、変えてたりしていくための「対話の実践」をテーマにしています。

(中略)

 現実に立脚して、理想とのギャップに挑むには他者と共によりよく働くことが不可欠です。それを阻むもの、可能にするものは何なのかということを、この本を通じてお伝えしたいと思います。

(はじめに p002-010)

構成

はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか

第1章  組織の厄介な問題は「合理的」に起きている

第2章  ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス

第3章  実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む

第4章  実践2.正論の届かない溝に挑む

第5章  実践3.権力が生み出す溝に挑む

第6章  対話を阻む5つの罠

第7章  ナラティヴの限界の先にあるもの

おわりに 父について、あるいは私たちについて

謝辞

ポイント

技術的課題と適用課題

 私たちが直面する問題として、本書では「技術的問題」と「適応課題」と定義づけをしています。

・技術的課題:既存の技術で解決できる

       例)データの共有→クラウドを使う

・適応課題 :既存の方法で一方的に解決できない

       例)他の部署に協力を求めても協力してくれない

 技術的課題は、知識や技術、リソースがあれば解決できることがほとんどです。

 対して、適用課題は表に語られていない理由がある場合があります。

 相手のアドバンテージがなくなったり、痛手があったりして反対される場合などがあり、ロジカルな説明だけでは理解を得られず反対されてしまいます。

 本書では、対話によって新しい関係を構築することで「適用課題」の解決を伝えています。

 組織での問題に直面した時、第一歩として技術的課題と適用課題の切り分けは大事な要素だと感じます。

 会議などで、一見ロジカルな点を指摘している場合でも、実は面倒、権限の保持が実は理由だったりすると、何度手直ししても解決へは一向に進みません。

 見せかけの改善や考えなしの流行り物の導入などに巻き込まれてしまうと、直面しが遅ですね。

適用課題の4タイプ

 適用課題について、4つの種類に分けられています。

・ギャップ型:価値観と行動が一致しない

・対立型  :組織間での評価軸の違いによる対立

・抑圧型  :組織の中で発言、問題提起ができない

・回避型  :問題のすり替え、責任転嫁

 この4種類の問題は、人と人、組織と組織の関係性で生じている問題と述べています。

 そして、各個人、組織内では現状・短期的に合理的であったりするので、自身の主張をするだけでは解決できません。

 相手の持っているナラティブ(一般常識、解釈の枠組み)を理解する必要があります。

相手のナラティブを理解する方法

 本書では、相手のナラティブを理解する方法として4つのプロセスを提案しています。

1.準備「溝に気づく」

  相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく

2.観察「溝の向こう側を眺める」

  相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る

3.解釈「溝を渡り橋を設計する」

  溝を飛び越えて、橋がかけられそうな場所や掛け方を探る

4.介入「溝に橋を架ける」

  実際に行動することで、橋(新しい関係性)を気づく

(第2章 ナラティブの溝を渡るための4つのプロセス p039

 コツとしては、一旦自分のナラティブを脇に置いて考えることと、相手の環境をよく観ることです。

 最後は行動して、上手くいくように繰り返し検証して解決への道を探っていくことを進めています。

 根気強く、ハードな道のりですが、困難な問題への取り組みには地道な活動が必要だということです。

 本書では、「総論賛成・各論反対」「正論が届かない」「権力による溝」などに取り組んだ例を持って適用課題への解決方法について示しています。

感想

 組織で働く時に解決し難い適用課題へのアプローチについて学ぶことができます。

 対話の他者理解に対する重要さと使い方について伝えています。

 対話が大事はよく聞きますが、具体的にどんなことを考えて、目的にして対話すればいいのかはなかなか教えてもらう機会はありません。

 本書では、他にも対話で陥りやすい罠についても書かれており、注意点も知ることができます。

 組織、人間関係のやり取りで問題を抱えている方、組織で働く方におすすめな一冊です。

 ご一読ありがとうございます。